ATHELETES VOICE#007 成田 郁久美


元全日本女子バレーボール代表選手で、二度のオリンピック出場をはじめ多くの国際大会で活躍し、女子バレーボール界に大きな功績を残してきた成田郁久美さんが第6回のアスアスラボの先生。12月12日(土)に『バレーボールラボ』が開催された。現在北海道各地でバレーボールの指導も行う成田さんがこの日のラボで教えたこと、そして彼女のさまざまな経験があるからこそ伝わるメッセージ。



“繋ぎ”のスポーツ、バレーボールの楽しみ方

中学1年生から3年生までの54名が参加した今回のラボ。密集を避ける配慮をしながらも、子どもたちが伸び伸びとスポーツを楽しめるよう考えられたプログラムでラボが始まった。バレーボールチームに所属している子たちも多く集まったなか、この日成田さんがこだわったのは「基礎」の部分。

「いろんなチームに所属している子たちがいたので、どの子が何をやっても対応できるような基礎の部分をメインにしてみました。メニュー的には難しくはないのですが、子どもたちにとってはやっぱり難しかったかもしれないですね。でも、ちょっとアドバイスしただけで、パッと変わるくらい伸びしろが大きい。だから、子どもたちに教えてるのはすごく楽しいんです」



バレーボールという種目の楽しさについてこう語る。

「ボールが繋がる、ということが一番楽しいですね。バレーボールは“繋ぎのスポーツ”と言われています。ボールが持てないので難しいですし、チームの気持ちがひとつにならないとボールは繋がらないんです。だから繋がったときに感じられる一体感が、バレーボールの魅力であり、楽しさですね。サーブをどこに打って、どうブロックするかなどを考えながらボールを繋いでいく。その緻密な部分を見てもらえたらもっと楽しくなると思います」



大きな目標を達成するために、突き詰めること

シンプルなルールの中で、いかにチームをひとつにまとめボールを繋いでいくか。上達するためのトレーニングにはさまざまな課題がある。成田さん自身は、これまでどのような目標設定をし、それを達成してきたのだろうか。

「私は一貫して、遠い目標は作らずに“今日はこれをやるぞ”というその日の目標を積み重ねていました。オリンピックでメダルを取る、という大きな目標ではなく、オリンピックでメダルを取るために今何をすべきか、という目標。私は小学生の時にバレーボールを始めたのですが、他のチームメイトよりも始めるのが遅かったので、みんなよりサーブのミスが多かったり、アタックもうまく打てなかったりと、下手くそだったんです。だから、“今日はサーブをミスしないようにしよう”というように、具体的に今日の目標を作って練習していました」



その後高校時代に初めて、「日本一になりたい」という大きな目標を掲げたという成田さん。その時も目標設定に対して彼女らしい突き詰め方があった。

「自分の技術だけの目標が達成できても、バレーボールは勝てません。だから大きな目標に対しても、チームとして自分が何をするべきかということを考えることが多かったですね」


このように目標達成のためのさまざまなプロセスを経験した先に、自身の成長を実感するのだろうか。成長についても、成田さんならではの捉え方があった。

「その人の成長は周りの人が評価するものだと思っているので、自分の中で自分が成長したかどうかってわからないし、実感したことは一度もないです。選手時代、もし客観的に成長していたのであれば、その成長をもたらした要素は、勝ち負け関係なく、“あっ、これが楽しいな”みたいな競技のおもしろさを追求し始めたことかもしれないですね。選手である以上、勝負の世界ではあるのですが、そこから一歩引いて、子どもの頃に思っていたような楽しい気持ちでバレーボールをできるようになったことが、長く続けてきて変わってきたことかもしれません」



視点を自分からチームに。大切なことを意識する

もちろん楽しいことだけではない。うまくいかない時、いわゆるスランプもある。

「私はエースアタッカーを長くやってきたのですが、高校くらいまで、勝負がかかったところで逃げてしまうことが多かったんです。絶対に決めなきゃいけない場面で、ブロックから逃げてフェイントしてしまったり。ミスを怖がっていたんですよね。でも、エースアタッカーというポジションって、みんなが繋いできたボールで、みんなの気持ちを思って点を取りに行く、最後の砦みたいな存在なんです。チームからの信頼感がないと務まらないポジションなんだ、ということを感じられるようになってからは、これまで逃げて負けてしまったことが悔しくて、だんだん勝負ができるようになってきました。高校3年生の時、当時の監督に“ブロックされないと覚えないぞ”と言われたのが乗り越えられたきっかけのひとつだったかもしれません。ブロックされたら落ち込むけれど、実業団に入ってからはもっと上手い人がたくさんいる。そんなすごい人たちの中だと、自分は大したことないじゃんって思うようになってふっきれましたね」



成田さんは自身のメンタルの弱さを感じることもあったという。それを乗り越えたからこそ、立場を共感する人たちに伝えられることがある。

「若い頃は本当に気持ちが弱い選手だったので、やりたくないって思ったら全然できなくなるし、『帰れ』って言われたら帰る、みたいな子でした……。そして若い頃から試合に出させてもらっていたので、いつも先輩がカバーしてくれたり、許されることが多かったんです。『今日はこれだけ頑張ってね』と言われたら、他のことはしないでその言われたことだけしかやらなかったりと。周りが助けてくれるっていつも思っていて、自分でなんとかしてやるっていう気持ちが薄い選手でしたね。だからこそ、自分がベテランになったときに、甘えたり、さぼっている子はすぐわかるんです(笑)。そういう子を見つけたら『わかるよ、私もやったよ』って言っています。そしてその先の『でも』っていうところが大切で。試合に出るということはチームを代表するわけだし、試合に出られない人の気持ちを考えたことがあるかとか、“オリンピックに出てすごいね”と言われて喜ぶだけじゃなく、その結果を得るまでにどれだけの人にサポートしてもらったかとか、そういうことがわかる選手じゃないと、信頼を得られない。チームで勝ちたいという目標設定をしたときに絶対に必要なことなんですよね」



自分に足りない部分を乗り越え、プレーにもいい変化が出たのは、実業団時代にキャプテンに任命されたことが大きかったという。

「私はもともと他人の意見に左右されないタイプで、先輩やコーチに言うことをそのまま聞く子が多かった時代の中でも、自分の考えを持っていました。だからチーム全体を見るということをしてこなくて、そこが足りない部分だとコーチにも言われていました。それで実業団に入って5年目くらいの頃、強制的にキャプテンに任命されたんです。キャプテンになると、自分のことよりチーム全体を見なくてはならないことが多くて、最初はそれが苦痛でしょうがなかったんです。でも続けていくうちに、自分がこういう努力の仕方をすればチームメイトがついてきてくれたり、信頼してくれるということが、徐々にわかってきて。強制的にやらされたことだったけれど、キャプテンを経験してから自分のプレーもいい方向に変わったように思います」



自分らしく、今を楽しむということ


スポーツの存在を「自分が自分らしくいられるもの」と表現した成田さん。意思を持ちながらも、チームや環境の変化も柔軟に捉え、常に自分自身をいい方向に向かわせるパワーがあるからこそ、そんなふうに思えるのかもしれない。そして何よりバレーボールが好きで、楽しんでいるからなのだろう。成田さんから子どもたちに贈るメッセージ。


「今を見て、今を楽しんでほしい。終わったことを気にしても過去は変えられないし、起こっていないことを想像してあれこれ言うのも時間がもったいない。それよりも、今何を楽しむか、何を頑張るかということを見つけてほしいですね」



成田 郁久美 Ikumi Narita

旭川市出身。元全日本女子バレーボール代表選手。アトランタ、アテネと二度のオリンピックに出場した他、ワールドカップ、世界選手権などの国際大会にも数多く出場。Vリーグでは3度の優勝を経験。多数のポジションをこなし、オリンピックにはエースアタッカーとリベロの2つのポジションで出場した。世界ベスト6、アジアベストプレーヤー、VリーグMVPなど表彰多数。2011年に現役を引退し、14年より一般社団法人A-bank北海道の賛同アスリートとして道内各地で指導を行うなど、活躍を続けている。


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